第17章 てのひらの恋(澤村 大地)
残された早川さんは、何も言わずに俺の目をじっと見つめていた。
「じゃ、お疲れ様です。気を付けて帰ってください。」
俺はそれだけ言って背を向けた。
「二回目。」
聞こえてきたのは、低く、冷静な彼女の声だった。
振り向くと、すぐそばまで彼女は歩いてきた。
「さっき、グラス取り替えたでしょ。今のとあわせて二回目だよ、余計なお世話したの。」
なんなんだこの人は。俺が悪いのか?謝ればいいのか?
不機嫌そうな彼女は、腕を組んで口を開いた。
「私、顔は赤くなるけどあのくらいじゃ全然酔わないし。酔ったふりして楽しんでるだけなの。
一晩一緒に遊んでくれる相手がいればそれでいいの。それなのに、澤村君てばなに邪魔してくれてんの。」
「……すいませ」
「そういうことしてるとね、私みたいな女に勘違いされちゃうよ。」
俺が何か口をはさむタイミングなんて一切与えないまま、彼女は俺の手を取って歩き出した。
「あの、一体何を。」
「澤村君一人暮らしだよね。ここから何駅?」
「2駅ですけど……」
「じゃあ私の家より近い。そこで家飲み、付き合って。澤村君全然酔ってないし。お酒強いよね。」
「いや、あのちょっと……。」
自分よりずっと小さな彼女に引っ張られて、俺は電車に乗り込んだ。