第17章 てのひらの恋(澤村 大地)
「澤村君は、どうしてうちのゼミにしたの?」
テーブルに肘をついて俺を見上げる彼女はやっぱり普通にかわいかった。
俺は、騙されないぞ。と何故か気合いを入れてから答える。
「ゼミ紹介の冊子にあった論文読んで、ここにしようと思いました。」
「あ。あれ書いたの私。」
人差し指で自分自身を指して、早川さんはにこりと笑った。
「え。そうなんですか。」
驚いた。まさかあの見事な論文と、今目の前で酔っ払っている彼女とはなかなか結びつかない。
ましてやあんな噂のあるような人だし……。
「キミ、今失礼なこと考えてるでしょ。」
心の中を読まれて、俺はドキリとする。
「え、いえ。そんなことは……。」
目を逸らして、俺はレモンサワーをちびちび飲む。
「大丈夫だよ、私、ちゃんと遊ぶ相手は選ぶから。」
「え。」
「澤村君みたいな良い子には、遊びで手出さないから安心して。」
早川さんはふふっと笑ってグラスを半分ほど飲み干した。
顔がだいぶ赤い。
「凪沙ちゃーん。こっちで一緒に飲もうよー。」
隣りのテーブルの4年生に呼ばれて、早川さんははーい、と返事をする。
「じゃあね、澤村君。」
彼女が立ち上がって自分のグラスに手を伸ばす。
「早川さんのはこっちですよ。間違えないでください。」
「あ、そっか……。ごめんごめん。じゃあね。」
彼女は、俺の渡したグラスを持って席を離れた。
俺の飲んでいた、ほとんど氷が解けて薄まったレモンサワーを持って……。
これ以上飲ませないほうが良いという純粋な思いもあったし、
何故だか彼女をそっと守ってあげたくなったのも事実だった。