第15章 そんなふたり(岩泉 一)
4人が病室に入ると、早川はベッドに座っていた。
岩泉の目には、その彼女は、昨日までとなにも変わらないように見えた。
「……凪沙?」
岩泉が恐る恐る名前を呼ぶと、彼女はその声に反応して彼の顔を見たが、返事はなかった。
「凪沙ちゃん、こっちは岩ちゃん、この大きいのはまっつんだよ。何か思い出さない?」
及川が優しく話しかけると、早川はじーっと二人の顔を見比べる。
「……特に。」
首を横に振ってから、うつむいてしまった。
「凪沙、本当になにも覚えてないのか。俺のことも分からないのか。」
岩泉が、早川の顔を覗き込む。
「……ごめんなさい。」
小さな声で謝って、彼女は目を逸らす。
岩泉は少なからずショックを受けて、呆然とする。
「二人が来るまでも色んな話してみたんだけど、ずっとこの調子なんだよ。」
花巻がお手上げ、という風に両手を挙げてみせる。
「あの……。」
早川が遠慮がちに声を出した。