第14章 魔法をあげる(西谷 夕)
「腕じゃなくて足動かせ!」
「もっと腰落とせ。」
「根性みせろ!」
「気合いだ!!」
対人レシーブをしながらの西谷の指導はどんどん具体性を欠いていった。
(いつものことだけど……プレーが天才だからって教えるのは天才ではないんだよなあ。)
でも、西谷とこうしてボールを打ち合うのは楽しかった。
リベロの西谷が打ち込むスパイクは当然弱い。それでも女子の早川にとっては十分のパワーだ。
「あ、やべ!」
「きゃ!」
慣れないスパイクのコントロールを誤って、早川の顔面にぶつけてしまった。
「悪い悪い、大丈夫か?」
焦って駆け寄ると、早川はぶつかった頬を押さえながら、予想通り目に涙をためていた。
「痛い……。」
「ごめんって、泣くな!ほら、続きやるぞ。」
「もういい……。私バレーやめる。」
「はあ!?」
西谷は一瞬驚くが、彼女がこうなるのはいつものことだと思いなおす。
「そんなメソメソしてたら練習できないだろ。泣きやめ!」
「……。」
俯いたまま動かない早川。