第14章 魔法をあげる(西谷 夕)
体育館裏の木陰に早川はいた。
(どうしよう、いっぱいミスした。私のせいで負けた……。みんなにも合わせる顔がない……。)
うずくまっていると涙が次々とこぼれた。
「うう……。どうしよう。練習あるのに……。」
手の甲で涙をぬぐっていたら、馴染の深い声が聞こえてきた。
「こんなとこにいたのか。」
西谷は手に持っていたタオルを彼女の頭にかけてやる。
「夕……。あっちいって。ほっといて。」
精一杯の強がりも、鼻声になれば台無しだ。
「ヘタクソのくせに、落ち込んでんじゃねえよ!泣いてる暇があったら練習しろ練習!!」
早川の頭上から、西谷は元気な声を浴びせる。
「うるさい。天才リベロの夕には、わかんないよ。私の気持ちなんてさ……。」
タオルで顔を覆いながら早川はこもった声を出す。
「仕方ねえなあ。じゃあその天才リベロ様が、ヘタクソのお前の練習に付き合ってやるよ。特別にな!」
しゃがんだままの早川の腕を引っ張って無理矢理立たせる。
「ほら、いつまで泣いてんだ。泣いてかわいいのは小学生までだろ。もしくは美女だけだ。」
背の低い西谷よりも、早川はさらに頭一つ分小さい。
彼女の顔を覗き込んで涙を拭いてやる。
「うるさいよ。」
「よし、元気だな!」
にっと笑って、西谷はちょうど転がっていたバレーボールを持ち上げた。