第13章 とうふの日(菅原&岩泉)
空のグラスの水滴を指で弄りながら、菅原は口を開く。
「あいつ高校ほとんど行ってなかったからさー、って話したっけ?」
「ああ、不登校だったんだっけ?」
岩泉はのこり少なくなったビールを飲み干して、グラスをテーブルの端に寄せる。
「そうそう。だからさ、自分がどのくらいモテるかとか、
警戒しなきゃいけないかとか、そういうの全然分かんないまま大学生になっちゃったんだよなー。」
「心配性すぎると思うけどな。
お前の彼女、かわいらしくはあるけど決して万人にモテるタイプではないし。」
「冷静に人の彼女貶さないでくんない?」
「ていうか、お前だって相当モテてるんだからむしろ彼女がそれを心配する方が現実的だと思うけどな。」
岩泉はそう言いながら串焼きに手を伸ばす。
「あーそれナギにも言われた。でも俺そんなモテた記憶ないんだけどなー。」
うーん、と唸りながら腕を組んで考え込む。
「まあ、そんだけ普段から彼女自慢あっちこっちにしてればな。
さすがに言い寄りにくいだろ。」
「えー、だってかわいいもん。もうね、俺、すげえ好きなの。この前もさー……」
「わかったわかった。
お前基本良い奴だけど酔っぱらうとめんどくさいときあるべな。」
長くなりそうな菅原の話を軽く流して、眉間にしわを寄せる。
「いや、それはない。」
「もうその時点でダメだわ。」
岩泉はため息をついて、串焼きを食べ始めた。
「岩泉は?モテるのに彼女作んないよな?」
焼酎に口をつけながら、岩泉はうーんと少し考える。
「別に作らないって決めてるわけじゃねえけど。
好きでもないのに付き合うとか失礼だべ。」
真顔でそう言う彼に、菅原は心から感心した。
「ほんと岩泉って男前だよなー。」
「いや、普通だろ。
ていうか身近にチャラチャラした奴がいたからその反動かもな。」
「チャラチャラした奴?」
菅原は首をかしげながら、ハイボールを飲む。
「ヒント、及川。」
「それヒントでなく答えじゃん。」