第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
唇を重ねて、音も立てずにすぐに離す。
「クロ……?」
「もっかい。」
再びキスをして、今度はそのまま早川の背中を支えてソファにゆっくりと押し倒す。
「ん……クロぉ……待って、」
彼女が抵抗のために口を開くと、その隙間から舌をねじ込む。
逃げる彼女のそれをそっと絡めて吸いあげると、肩をびくっと震わせて反応する。
(気持ちいい……流される……。)
早川は急に回ってきたアルコールと、キスの感触に理性を失いそうになりつつも
僅かに口を離した隙に、必死に訴える。
「ま、まって、クロ。お願い、きいて……。」
「なに。」
黒尾が彼女の髪をなでながら返事をする。
「あの、私、まだこういうのは、ちょっと考えられなくて……。」
「知ってる。彼氏と別れて日も浅いし、
しかも相当長い期間付き合った相手だったみたいだし。それは分かってる。」
「だったら……。」
「忘れろよ。そのほうが楽になるから。」
そう言って唇をふさごうとするが、
「む、むり……今はまだ、忘れるなんて無理……。」
彼女が首を振って、涙をこぼした。
それを見て黒尾は猛烈に反省した。
「あーごめん。ほんとごめん。」
そっと抱きしめて、その背中を優しく撫でる。
「ごめん。もうしない。」
そう言って、彼女の身体を抱き起こした。
「今のは酔っぱらいの戯言だから気にすんな。
これまで通り、俺とお前は幼馴染だ。もちろん研磨も。
ナギは、今は自分のことだけ考えろ。
早く失恋から立ち直って、体調も整えて、新しい仕事も見つける。いいな。」
早川は黙って頷いた。
「ただ、俺がナギのこと好きなのは、本当だから。
それだけ覚えといて。また時期が来たら改めて言うから。
そしたら返事ちょうだい。」
黒尾は早川の涙を指で拭ってやる。
「俺のこと、怖くなった?」
「ううん。そんなことない。クロはいつも優しいし、怖いわけない。」
早川にそう言われて、黒尾はそりゃよかったよと笑った。