第9章 ここにいる理由③(黒尾&孤爪)
「な、なに言ってんの!?」
動揺した早川が立ち上がろうとするが、
黒尾は肩を掴んでそれを妨げる。
「いいじゃん。昔の話だろ。もう時効だって。」
「そうだけど……なんでクロが知ってるの。
私誰にも言ってない。」
「言わなくたって分かるって。ナギはすぐ顔に出るから。」
「じゃあ、研磨も、気付いてた、かな?」
早川が途切れ途切れに声を出す。
「それはどうかなー。研磨は妙に鋭いから何かは感じてたかもな。
でも中学の時のあいつは今以上に素で恋愛に無頓着だったから。
色恋に関することが当時の研磨の理解の範疇を超えてしまっているとすれば、気付いてない可能性もある。」
黒尾は冷静に分析しながら声を出した。
「そっか……。どうしよう気まずいなあ。」
困ったように笑う彼女がもどかしくて、黒尾は早川の肩に乗せた手に力を込めた。
(やばい、止まらねえ……。)
早川が動揺しているのは明らかだ。もうこの話はおしまいにするべきだ。
そう思っているのに、心のどこかで
今なら行けると、ほくそ笑んでいるもう一人の自分の存在があった。
「気まずくねえだろ。
俺だってずっとナギのこと好きだったんだから。」
「え、クロ?ちょっと待って酔ってるでしょ落ち着いて……。」
黒尾は持っていた缶をテーブルに置き、彼女の手から奪ったコップもその隣に並べる。
「落ち着いてるよ俺は。すげえ冷静。」
「いやいやいや、目すわってるよ絶対酔ってるってとりあえず……」
逃げ腰の彼女の腕を掴んで、もう片方の手を後頭部に回す。
「ちょっと黙ってろ。」
そう低く言って顔を近づければ、彼女は何をされるのか悟ってぎゅっと目を閉じた。