第10章 夏風
夏祭り当日。私は今まで感じたことのない感覚に襲われていた。
【 好きな男の子と外出する。】
こんな機会、下手したら一生来ないんじゃないかと思っていた私は、中学生になった途端突然やってきた春に、どう対処したらいいのかが、全くと言っていいほど解らない。
ハラハラするような、それでいて、とっても緊張する。だけど、何故か嬉しい。
お祭りまで、あと3時間以上あるのに、今からこんなに緊張してたら、心臓保つかな?;;;
なんてバカなことを考えてしまうくらい、
私は矢吹くんと二人きりで廻る夏祭りを楽しみにしていた。
なんとかこの緊張感を紛らわせる方法はないかな…?と思った私は、私のまわりに居る人のなかで、一番緊張感とは無縁の人に会いに行くことにした。
外に出るため、一階へ降りるための階段を降りていると、聞き覚えのある声が一階から聞こえてきた。
うちの一階は、本屋だ。
だから、お客さんの声が階段を降りるときに聞こえてくるのは、しょっちゅうだ。
だけど、その声が次の瞬間発した言葉や口調は、
私の知るその人の、普段私に話しかけてきてくれる "ソレ" とは違っていた。