第1章 オレンジ
「なぁ!」
「……はい。」
そう返したのは、私ではなく、佐藤さん。
人見知りな私に、返す勇気は、残念ながら存在しない。
「………………」
振り返った先には、急いで走ってきたのか、肩を上下させている笠松先輩がいた。
…面識はあるが、話したことは、一度もない。
「…あんたじゃなくて…………」
「…ん?」
いまなんて???
辛うじて喋ったことがわかるくらいしか聞こえない声量で、たどたどしく、笠松先輩はなにか言った。
「……………」
沈黙が続く。
「……さっきの!サンキューな!//」
「…………は、はぁ…」
いきなり声量を増したその声は、まさに捻り出した、といった感じで、佐藤さんを困惑させた。