第11章 カウンター
肩にガシリと置かれた小さな手の意味がすぐには理解できず、黄瀬は切れ長の目を見開いた。
「え……な、何?どーしたんスか?」
「そんなことされたら、私だって」
首に巻きつく腕と、徐々に近づく彼女との距離が意図するものは、ただひとつ。
「ちょ、結……!?」
どこか既視感を覚える唇を、だが拒む理由はなかった。
近すぎてぼやける視界に映るのは、伏せた瞳を縁取るまつ毛のかすかな震え。
予想外の嬉しすぎる誤算に、黄瀬はくちづけを受け止めながら目を閉じると、体重をかけてくる結に押されるままジリジリと後ずさった。
細い腰に腕を添えて、その唇を離さないように細心の注意を払いながら、ゆっくりと腰をおろしたベッドがギシリと音を鳴らす。
「ん、黄瀬さ……」
「ハ……っ、結、ン」
脚の間に引き寄せた身体のやわらかさが、正常な思考力を奪っていく。
乱れる呼吸の隙間を狙って、するりと舌を差しこむと、黄瀬は抵抗をみせない歯をこじ開けて上顎をくすぐった。
「ン、はぁ……ん」
「その声、スゲェ好き」
彼女からのレアなキスを離すまいと、後頭部を抱え込むと、軽い身体を抱きしめながら、黄瀬はベッドに仰向けになった。
まるで押し倒されているような体勢に、ズクリと下半身が暴れ出す。
(そーいえば騎乗位ってまだヤったことないな……。いやいや、今はこのキスに集中集中)
経験の少ないウブな恋人に、無理をさせるつもりは毛頭ない。
勿論いつかは、という野望を捨てたわけではないが。
自分自身を鎮めるように、艶やかな黒髪にそっと手を差し込むと、色んな角度から唇を求めてくるキスにすべてを委ねる決意を固め、甘い舌に酔いしれる。
「……結、気持ちい」
「ほん、と……?」
「マジで、嬉し。もっと……もっとちょーだい」
キスだけでこんなに気持ちいいのは相手が結だから。
彼女以外にこの熱を鎮めてくれるモノは、もうきっと見つからないだろう。
「……りょう、た」
頭の中で、プツリと理性の糸が切れる音が鳴り響いた。