第10章 テスト
「この前、不完全燃焼だったからさ……」
「この……前?」
意味不明なことをつぶやきながら、片手で器用にシャツのボタンを外していく指先を、結は我に返って押しとどめた。
「待っ、て……今日は勉強、しに」
「その勉強に集中できないから困ってたんじゃないスか。アレ?あの時の約束、もしかして覚えてないんスか?」
「……約、束?」
「そ、続きはまた今度って」
旬の果物を目当てに、緑間をはじめ、桃井や青峰、そして黄瀬が自宅に集まったのは先週──いや先々週だっただろうか。
人目を忍ぶように交わしたキスと、熱い眼差しに抗えず、首を縦に振って応えた約束を思い出して、頬に熱が集まる。
「あ」
「思い出した?」
笑いを含んだ声と甘い吐息に鼻の頭をくすぐられ、結は返事の代わりにそっと目を閉じた。
「カ~ワイ」
「ん、ぅ……」
重なってはすぐに離れていく、焦らすようなくちづけ。
もっと深く欲しいと言えず、結は蕩けはじめる意識の中で唇をうすく開いた。
「足りない?」
「そんな聞き方……ズルい、です」
「ホント素直じゃないんだから」
「ふ……ぁ、ンんっ」
噛みつくようなキスに頭の芯を溶かされる間もなく、ベッドに深く押し倒されて、覆い被さってくる身体の重みすら愛しく感じながら、結は濃厚なキスに身を震わせた。
「でも、そんなトコも好き」
チュッと音を立てながら離れた唇が、今度は顔中に降り注ぐ。
「ふ、ぁっ」
「やっぱ、その声……たまんないっスわ」
乱暴に衣服を乱されて、あらわになった首筋に顔をうずめる黄瀬の髪が、素肌に火をつける。
「ん、あ……あぁ」
「結、も……ホント、好き。変になりそっス」
首筋を這う舌が、余裕をなくした囁きが、身体の隅々に熱を灯していく。
荒い息とともに歯を立てた後、ねぶるように耳朶を含む黄瀬の口内は火傷しそうに熱かった。
「ゃ、っ……そこ、駄目」
「ハッ、知ってる」
「あぁ、っ……ん」
耳の奥深く入ってくる濡れた舌に、ぴちゃぴちゃと鼓膜を揺らされて、結はなけなしの理性を手放した。