第9章 ラッキーアイテム
ようやく観念したのだろう。
おとなしく腕におさまる細い身体を、黄瀬は胸に深く抱き込んだ。
(こうやって抱きしめんの、何日ぶりだっけ……)
ふいに頭をもたげる悪戯心。
黄瀬は自然と上がる口角を隠すように、艶やかな黒髪に鼻先を擦りつけた。
「ねぇ……結。オレのテクニック、評価してくれてるんだ?」
「……バスケの話、です」
「えぇ~、オレ頑張ってるつもりなんだけどなぁ。イロイロと」
色々と、という単語に含みを持たせるように、ワザと声のトーンを変える。
ぴくりと跳ねる肩は、それが伝わった証拠だと、自分に都合のいいように解釈したくなるのは、男の常であり罪はない、はずだ。
「それ、は……だからバスケの、話で」
消え入りそうな声で無駄な抵抗を続ける恋人の耳に口を寄せると、黄瀬はとびきり甘く囁いた。
「ホントにそれだけ?」
「…………」
(どうしてそこで沈黙するんスかね。ホント、このコは)
笑いを噛み殺しながら、黄瀬はスラリとした長身を屈めると、完全に黙りこんでしまった結の顔を覗きこんだ。
かたく目を瞑って、耳まで真っ赤に染める姿にたまらなく欲情する。
黄瀬の喉が音もなく上下に動いた。
「……サクランボみたいっスね」
「は、い?」
「やわらかそうな耳も、ちっちゃな唇も……甘くて、うまそ」
それは、蜂蜜のようにトロリと肌を溶かす極上の囁き。
意味ありげに唇をなぞる指に導かれるように、顔を上げた恋人の瞳が、期待を孕んで潤んでいるのは気のせいなんかじゃない、絶対に。
「な、に……?」
「キスしたいな、って思ってさ」
「まさか……冗談、ですよね。下にみんな居るのに嘘でしょ、んっ!?」
黄瀬は火照った頬を両手で包むと、食べ頃の唇に食らいついた。
「ンっ、んん……っ」
顔を左右に振って抵抗を見せる小さな頭を、優しく、だが少し力を入れて押さえ込む。
「逃がさないって」
「や……ぁ、っん」
唇の隙間から無断で侵入させた舌で、上顎をくすぐり、奥へと逃げる舌を追いかける。
胸を叩いていた手から力が抜けて、シャツに縋りつくまで、その激しいくちづけは続いた。
「っは、ぁ……ん」
「煽った……結が、悪いんスよ」
「そ、んなつもり……じゃ」
「責任、取って」