第9章 ラッキーアイテム
「ブハッ!」「ぷぷっ」
青峰と桃井は同時に噴き出し、緑間は眉間を押さえながら「はぁ」と溜め息。
「バス、ケ……?あ、ああ……そそそーいうこと、っスか」
そして、ようやく合点がいったのか、黄瀬はバツが悪そうに口角を引き攣らせた。
「え?何……私、変なコト言いましたか?」
結は状況が掴めないまま、目の前に座る桃井に救いを求めるように目を向けた。
たっぷりと笑いを補給して満足したのか、桃井はうっすらと目に涙を浮かべながら「仕方ないなぁ」と結に微笑んだ。
「あのね、結ちゃんが言うテクニックって、バスケの話でしょ?」
「そう、ですけど」
それ以外に何があるというのだろう。
この面子でテクニックといえば、バスケ以外に思いつかない。
結は先をうながすように、数回瞬いた。
「さっき、ふたりがくだらない喧嘩してたの、聞いてなかったみたいだけど?」
「ム」
確かに聞いてはいなかったが、見慣れたいつものじゃれあいに、特に意味があるとは思えなかった。
「あれね、キスが上手いかどうかって話だったんだよ。だから、テクニックっていうのは……意味分かる、よね?」
「──は、い?」
サクランボの茎を舌で結べる人はキスが上手い
恋愛事情に疎い結でも、そんな噂の存在くらいは知っている。
「ちょっ、桃っち!ソレわざわざ言わなくていいっしょ!」
「だって、そっちの方が楽しそうなんだもん。きーちゃん、ごめんね」
ぺろりと舌を出して笑う桃井と、自分の発言を思い出して青ざめる結。
そんな微妙な空気を笑いに変えてこの場をやり過ごそうと、黄瀬はわざとおどけて見せた。
「せ、せっかくだから、テクニックの披露でもする?……イデデデッ!冗談っ、冗談だってば!」
助け舟を出したつもりの恋人に耳を引っ張られ、情けない声をあげる黄瀬を、緑間は同情のまなざしで見つめた。
「ワタシ、ちょっと失礼シマスネ」
棒読みの台詞と、痛みに悶える黄瀬を残して、結は足早に部屋から逃げ出した。
「あっ、結!待って!」
「結!オイ!」
大ちゃんはいいの、と桃井に足をかけられて転ぶ青峰を振り向きもせず、黄瀬は結の後を一目散に追いかけた。