第9章 ラッキーアイテム
「んー、美味しい」
赤いダイヤとも呼ばれるこの果実を味わえる時期は限られている。
結は、まだ何やら言い争っているふたりを完全に放置して、旬と呼ぶに相応しいみずみずしい実を頬張った。
「だったら、結に聞いてみりゃいいじゃねーか」
それは、ふいに耳に飛び込んできた青峰の低音ボイス。
「青峰っち!いいかげん、オレの彼女を呼び捨てにすんのやめてくんないっスか!」
「……は?」
外部接続をシャットアウトしていた結は、青峰にいきなり話を振られてキョトンとした表情を浮かべた。
騒ぎたてる黄瀬はいつものことだが。
「だーかーらー、黄瀬のテクニックはどうかって聞いてんだよ。オマエが一番分かってんだろ?」
「ちょっと、大ちゃん。いくらなんでもそれは……」
「そそそそうっスよ!青峰っち、それはさすがにダメっしょ!」
青峰の提案に、桃井と黄瀬が否定の声をあげている。一体何をそんなに慌てているのか、さっぱり分からない。
「テクニック、ですか?」
だが、さっきから話をほとんど聞いていなかった結は、今の状況を理解しないまま素直な答えを口にした。
「それは……まあ、スゴいと思いますけど。それが何か?」
「ぶっ!!」
緑間の口から飛び出したサクランボの種が、目の前に座る青峰の額に見事にヒット。
「ってーな!何しやがる!」
「グッ……す、すまない。ゴホッ……ゲホ」
「緑間さん!大丈夫ですか?」
むせて苦しんでいる緑間は、ある意味被害者と言えなくもない。おは朝占いも、時には外すこともあるという教訓か。
結の勘違いにいち早く気づいた桃井は、可愛らしい顔に満面の笑みを浮かべると、「楽しくなりそ」とつぶやいた。
一方、恋人の勘違いにまだ気づかない黄瀬のあわてっぷりは、実に見事なものだった。
「ちょ、結っ!皆の前でななな何言ってんスか!」
「何って……バスケの話じゃないんですか?」
「………へ?」
黄瀬は口をポカンと開け、人気モデルとは思えない間の抜けた顔を、惜しげもなく披露した。