第9章 ラッキーアイテム
「しかし、おは朝のチェックを怠らないとは流石なのだよ」
「緑間さんに喜んでもらえて良かったです。ラッキーアイテム、たくさん食べてくださいね」
「ああ。有り難くいただこう」
緑間の口許に浮かぶ笑みは、相棒の高尾がいたら泣いて喜びそうなレアな光景。
黄瀬は、女子を瞬殺する能力を秘めた切れ長の瞳を、これでもかと丸くした。
「緑間っちが笑うなんてめずらし……あ、ダメっスよ!結はオレのなんだから!」
抗議の意味を込めて立ち上がったせいで、大きな音を立てて倒れる椅子に視線を落とすと、緑間と結は同時に溜め息をついた。
「意味が分からないのだよ」「意味が分かりません」
「ふたりで仲良くシンクロまでして……緑間っち!結の隣からすぐ離れてくんないっスか!」
「馬鹿め」
「黄瀬さん」
呆れ顔の恋人から冷たい視線を送られて、黄瀬は飼い主に叱られた犬のように、自ら起こした椅子におとなしく腰をおろした。
「かはっ、もう尻に敷かれてやがる」
「ナニ言ってんスか!青峰っち!いつも下に敷いてるのはオレ……イデデデッ!!」
青峰の言葉を否定し、自慢するように胸を張った黄瀬は、テーブルの下で強く太ももをつねられて悲鳴を上げた。
ビリビリと痛む足をさすりながら、そっぽを向いてしまった結の耳にあわてて口を寄せ、「ゴメン」と小声で失言を謝罪する。
「ちょっと口が滑ったというか」
「あんなドヤ顔して……説得力ありません」
文句を言いつつもほんのりと朱に染まる耳に、黄瀬は唇の端をぺろりと舐めた。
(おいしそ……)
ふたりきりなら、きっとこの場で押し倒していただろう。
悶々とする気持ちにフタをするように、黄瀬は次の果実へと手を伸ばした。
「そういえば、皆は出来るの?コレ」
そんな性少年の葛藤に気づいたのか、はたまた偶然か。桃井はサクランボをツイとつまみあげると、意味ありげにそれを揺らした。
「そーいえば、やったことないっスね。よし、チャレンジしてみますか!」
「アホくさ……」
「ラッキーアイテムを粗末にするつもりはないのだよ」
「みんなノリ悪いっスね。いざ、やるっスよ!」
こんなものは朝飯前、なはず。
キスに溺れる恋人の顔を思い浮かべながら、黄瀬はサクランボを口に放り込んだ。