第8章 コール
軽い睡眠を取った後、「結……もっかいシよ?」とねだる声に流されるまま、何度も彼に愛された。
最後に黄瀬から解放されたのは何時だったのか、記憶にない。
やけに喉が渇いているのは、エアコンの効いた部屋のせいなのだろうか、それとも。
悶々とする気持ちを振り払うように、結はソロリと布団から顔を出した。
(腕、痛くないのかな……)
下に敷いていた左腕から頭を起こして、黄瀬の顔をそっと覗きこむ。
枕に頭を深く沈めて、恋人は深い眠りについていた。
規則正しく上下する胸。
スラリとして見えるのに、程よい筋肉に覆われたその上半身に結は指を滑らせた。
乱れた金髪がかかるその寝顔は、どこかあどけない。
「やっぱり……綺麗」
その前髪を指で整えて、輪郭をなぞるように頬に触れると、胸の奥がキュンと音を立てた。
こんな漫画のような形容詞を、実際に自分が体感することになるとは思わなかった。
「ん……」
カタチのいい唇に触れようとした瞬間、小さくこぼれる声に、結はあわてて手を離した。
(お、起こしちゃった?)
だが、黄瀬はわずかに身体を揺らしただけで、すぐにスースーと穏やかな寝息を立て始めた。
ホッとしながらも、その整った顔に深く見入る。
スッとした鼻梁。
今は閉じられている瞳を縁取る長い睫毛。
薄く開かれた唇から漏れる呼吸すら愛しくて。
顔を近づけると、少し乾いたその唇に、自分の唇をそっと重ねる。
「大好き」
そう小さくつぶやくと、結はまだ強く残る眠気に誘われるまま、隣で眠る愛しい人の温もりに寄り添った。
「おやすみなさい……涼太」