第1章 ハニー
まだわずかに戸惑うキスをほぐすように、黄瀬は舌先で結の唇をつついた。
「ふ……ぅ、ん」
「口、あけて」
付き合い始めて一ヶ月程経つが、その関係はまだキス止まり。
もともと会う時間が少ないうえ、実家暮らしのふたりに、そんな機会が簡単に訪れることはなかった。
もちろん、黄瀬が結を大事にしているということが一番の理由だが。
「や……ぁ、駄目」
「も、ちょっと……お願い、結」
しかし、健全な男子高校生の証でもある欲求は、こうして時々小さな暴走をみせた。
「あっ……ン」
うすく開いた唇に、黄瀬はスルリと舌をねじ込むと、まだ理性を残して逃げ回る結の舌を容赦なく追いかけた。
青いジャージを引っ張ってなんとか逃れようとする恋人のささやかな抵抗もお構いなしだ。
「お願い。逃げないで」
唇を合わせたまま、ねだるように囁く声は甘く。
ガクガクと膝から崩れ落ちそうになる結の身体を、黄瀬は胸に深く抱きこんだ。
「黄瀬さ……ン、あ」
(この声、腰にクるんだよな)
甘い吐息すら飲みこむように、黄瀬は濃厚なキスを浴びせ続けた。
「ホント……たまんない」
黄瀬が結を解放したのは、彼女がひとりでは立っていられなくなるほど口内をたっぷり堪能した後だった。
「ハ、やっぱ甘い……結のキス」
触れるか触れないかの距離で、黄瀬は赤くなった唇を名残惜しそうに啄んだ。
「ん、っ」
「これで今日の試合はバッチリっスね」
「も、こんなところで……」
すぐ近くから響く、ボールやバッシュの音に後ろめたさを感じているのだろう。
だが、苦情を言いながらも、ぐったりと自分の胸にもたれてくる恋人の頭のてっぺんに、黄瀬は最後のくちづけを落とした。
「結はまだ出てきちゃ駄目っスよ。まだ、かくれんぼしてて」
「……え」
「そんなエロい顔、他の誰にも見せらんないからね。じゃあオレ、そろそろ行くっスわ」
片手をあげてさわやかに去っていく広い背中を見送りながら、結はその場にぺたりと座りこんだ。