第1章 ハニー
薄暗くひんやりとした体育館の舞台奥。
差し入れを詰めたカバンを取りに来た結は、乱雑に積みあげられた荷物の山に思わず閉口した。
それは、部室に行くのが面倒な部員達のカバンや、脱ぎ捨てられたジャージ。
「あぁ、もう……こんなに散らかして」
結は深く息を吐くと、気合いを入れるように両手を握りしめた。
「結、みっけ〜!」
「ぅひゃっ!」
背後からいきなり声をかけられて、結は小さく飛び上がった。
「び、びっくりした。黄瀬さん、どうしたんですか?」
「アップ終わったんスよ。結はそんなとこで何してんの?かくれんぼ?」
荷物の山に半分近く埋もれている姿は、確かにそう見えなくもない。
「か、かくれんぼって……差し入れを取りに来たらスゴく散らかってたから、片付けてただけです!」
「そんなムキにならなくても……よいしょ、っと」
クスクスと笑いながら隣にしゃがむ黄瀬の吐息に髪を揺らされて、自然と跳ねる鼓動。
「差し入れって、さっき言ってたヤツ?先にひと口もらおっかな」
触れ合う肩から伝わる熱につられて、脈拍だけではなく体温も上がる。
ドキドキと騒ぎだす心臓の音が聞こえないように、結は胸に手を押しあてた。
「き、黄瀬さんは甘めをご希望でしたよね」
「そーそー。オレ、甘いのあんま得意じゃないんだけど、あれだけは甘いのが好きなんスよ。結のキスみたいに、ね」
「っ」
ガタガタっと音を立てて、その場にひっくり返る様子はまるでコント。
「な、なな……っ!?」
「ぷ。何してんスか?」
黄瀬は、唖然としている結の腕を引いて立ち上がらせると、そのまま緞帳のかげに引きずりこんだ。
「ちょ……な、何ですか?」
「結のせいだから」
「は」
「そんな可愛い反応されたら我慢できないって、分かんないの?」
「ン、んっ!?」
何の前触れもなく訪れるキスに、結は目を見開いた。
「黄、瀬さ……っ、ア」
「そんな声だして。悪いコっスね」
「や……ちが、っ」
ここは、いつ誰が来るか分からない体育館。
だが、熱い腕に力強く抱きすくめられて、さらに深く重なってくる唇に、結はなすすべもなく溶かされていった。