第7章 リミッター
頬に触れるひやりとした感覚に、結はうっすらと目を開いた。
「……ん」
「気がついた?」
重いまぶたを上げた視界に映りこむのは、切れ長の目を伏せる愛しいヒトの顔。
心配そうな表情を浮かべる恋人を安心させるように、結はふわりと微笑んだ。
「りょー、た……」
「よかった」
ほっと安堵の息を吐き、手のなかのタオルで額や首を拭ってくれる優しい手に身を任せながら、結はふたたび閉じようとするまぶたを指でこすった。
「気分はど?」
「……え」
気遣うような声の意図するところが分からない。
結は今の状況を把握することが出来ないまま、やわらかな枕の上で小さく首を傾けた。
「気を失ってたんスよ、結」
一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。
ただひとつ分かるのは、顔にかかる髪をなぞり、耳にかけてくれる長い指が、かすかに震えていること。
こんな黄瀬を見るのははじめてだった。
「ごめん。無茶しちゃって」
「……気を、失う?」
意識を飛ばすほどの激しいセックスは初めてだった。
確かに全身が怠く、腰は鉛のように重い。
だが、それは彼に深く愛された証だ。
「身体、ツラいっしょ?」
「ううん、平気……」
寝ている間に彼が着せてくれたのだろう。
身体を包むバスローブの柔らかさが心地いい。
「また……そんなヘタな嘘ついちゃって。バレバレっスよ」
「ム」
「ハハ。そんなムクれてないで、こっちおいで」
心を満たしてくれる優しい笑みと、甘いテノール。
その囁きに導かれるまま、結は差し出される腕に、おずおずと頭を乗せた。