第6章 ワンコ
「お邪魔しました。あと、寝てしまってスンマセン」
「いいのよ、気にしないで。またいつでも来てちょうだい」
どうして女はこうも見てくれに弱いのか。
早くも家族の一員のように馴染みはじめている金髪男が、翔には面白くなかった。
自分にはあまり近寄ってこないメイまで、まるで彼を引き留めるように長い足にまとわりついていることも含めて。
(ま、チャラいだけじゃないのは知ってるけどな)
翔は、リビングを出て玄関に向かうふたりを追いかけるように、廊下に顔を出した。
「おい。黄瀬」
「ハ、ハイッ!」
ピンと背筋を伸ばして立ち止まった黄瀬の前に、「もう、兄さんやめてよ」と庇うように立ちはだかった妹の姿に、「……結」と目尻を下げるイケメンモデル。
パタパタとちぎれんばかりに振る尻尾が見えるようだ。
まったく……見るに耐えない。
別に、自分はシスコンではない。
ないのに、妹に夢中な駄犬がこんなにも不愉快なのは何故だろう。
「最近、バスケ部の調子はどうだ?」
「へ?」
同じ高さの視線で問いかける、翔の瞳は、だが真剣だった。
「は、はい。今年こそはって、新入部員も含めて気合いはバッチリっス」
「そう、か」
厳しい表情で腕を深く組んだ翔は、ゴクリと生唾を飲み込み、次の言葉を待つ黄瀬をまっすぐに見つめた。
「海常のこと、頼んだぞ」
その口から飛び出した意外な言葉に、驚いて目を見開いたのは黄瀬だけではなく結も同じ。
「ハイ!」
一瞬結と顔を見合せると、嬉しくてたまらないという顔で、海常のエースは勢いよく頭を下げた。
「あと、前にも言ったと思うけど……結泣かせんなよ」
「っ……はい」
その端整な顔に浮かんだのは、紛れもない一人のオトコの表情だった。