第6章 ワンコ
「寝込みを襲っちゃダメよ」
いつの間にか近くに来ていた母親のからかうような声に、結はあわてて手を引っ込めた。
「もう!お母さん、変なこと言わないで!」
「んふふ。結の気持ちも分かるけど……ほら、なんか掛けてあげなさい」
四月とはいえ、夕方になると少し肌寒い。
顔の火照りを抑えながら、和室から持ってきた薄めのガーゼケットを黄瀬の身体にそっと掛ける。
「う、ん……」
黄瀬はもぞもぞと身体を揺らしたかと思うと、そのままソファに倒れるように崩れ落ちた。
クッションに顔をうずめて、くうくうと本格的に寝息をたてはじめるその横顔は、あどけない子供のよう。
「気持ちよさそうに寝ちゃって……あ、コラ」
その時、イケメンの寝込みを襲うようにソファにひらりと飛び乗ったのは、水原家の次女メイだ。
人見知りが激しいくせに、何故か黄瀬には早々に懐いてしまった。
さすがは人気モデルというべきか。
それとも、メスを惹きつけてやまないフェロモンは、人間以外にも有効なのか。
「ム」
彼の胸元で丸くなると、垂れた耳をピクピクさせて喉を鳴らしはじめる妹に、結はくやしげに唇を尖らせた。