第6章 ワンコ
「あら、黄瀬クン寝ちゃったの?疲れてるのね〜」
水原家にちょこちょこ顔を出すようになった黄瀬涼太は、持ち前の人懐っこさと社交的な性格で、彼女の母親のハートも見事にキャッチしていた。
「兄さんも、夕飯前によくこうやって寝てたよね」
強豪校と言われる海常バスケ部の練習は、今も昔も変わらずハードなことで有名だ。
日曜練の後、家まで送り届けるという名目で、飼い犬のごとく尻尾を振りながら結の家までついてきたいうのに、ソファの背にくたりと身体を預けて、黄瀬はいつの間にか眠りに落ちていた。
服の上からでも分かるたくましい胸が、心地いい眠りを表すように上下運動を繰り返す。
結は、浅い寝息を立てる美しい顔をまじまじと見つめた。
『今回は、少し暗めの色にしてみたんスよ。どーかな?』
そう言って前髪をサラリとかきあげる仕草は、入念に仕組まれた罠のよう。
『どう、って言われても……』
どんな色でも似合う──なんて言えるはずもない。
もっと素直になれたらと思うのに。
どうして心は自分の思うように動いてくれないのだろう。
『ナニ照れてんの?』
『て、照れてません』
『も〜、素直じゃないんだから』と抱きしめられたことを思い出して熱くなる胸に、結はそっと手を押しあてた。
「好きになったのは、外見じゃないのにな……」
わずかにブラウンがかった金の髪が、涼やかな目許にサラリとこぼれて、憂いの影を落とす。
閉じられていても魅力的な目許を、色濃く縁取る長い睫毛。
(駄犬……もとい、ワンコの印象しかなかったけど、切れ長の目は猫みたい)
色素のうすい瞳に見つめられると、いつも心臓が甘く痛む。
乱れた前髪を指でそっと整えながら、結は初めてみる恋人の寝顔をうっとりと見つめた。
「……綺麗」