第5章 モデル
ベッドに沈む結の肩にそっと触れると、黄瀬は足元に蹴られた布団をふわりと引き上げた。
「だいじょーぶ?」
ほんのり朱に染まる頬を指先で撫でながら、気遣うように声をかける。
煽られた責任を取ってもらうという、自分の中の大義名分に忠実に従ったとはいえ、さすがに今日はヤりすぎたかもしれない。
「ん……大丈夫、じゃ……ないかも」
「ハハ。ごめん」
そう言ってこめかみに優しくキスを落とす黄瀬自身も、情事の激しさを表すように額に汗を浮かべ、肩で息をしていた。
「ちょっとお預け長かったからさ。さすがに溜まって……ぶっ」
勢いよく黄瀬の口を塞いだ結の手が、ワナワナと震える。
「な、なな何を……っ」
「ぷはっ!でも、これで分かったっしょ?あんま焦らすとどうなるか」
その手を呆気なく引き剥がすと、黄瀬はお預けをくらっていたことをやんわりと非難するように、ニコリと微笑んだ。
不敵に細められる切れ長の瞳の破壊力は抜群だ。
「……っ」
言葉につまる恋人に勝利を確信し、黄瀬は絡めた細い指をペロリと舐めた。
「ひゃ、っ」
「いつだって結が欲しいんスよ。分かった?」
「う……ぜ、善処します」
「期待してるっス」
イタズラっぽく笑うと、黄瀬はまだ納得いかないように頬を膨らませる恋人の鼻の頭にキスを落とした。
「でも……こんなのズルい、です」
「ん?」
うつむいた恋人の視線の先には、無数に咲く赤い花。
汗が引いた身体が冷えてきたこともあるのか、結はそれを隠すように布団にくるまった。
「オレのヤる気スイッチ入れたの結っしょ?」
「ム。そんなスイッチ壊して……」
「いいっスよ。隅々まで探してみる?」
「ぐっ」
ふたたび押し黙った彼女の唇に、黄瀬は指をそっと滑らせた。
「今日は結からキスしてくれて、思いがけずエッチまで……あぁ、オレ今すごく幸せっス」
「うっ。私は明日、大学に行くのが怖いです」
「カーワイ……」
黄瀬は肩を揺らしながら、頭まで布団を被って悶々とする結を布団ごと抱きしめた。
「そーいえばさ、さっきの奴と仲いいんスか?」
「仲がいいというか、普通の知り合いです。それより……」