第5章 モデル
ふたりが付き合っていることは公にはされていなかった。
それは黄瀬が、嫉妬や嫌がらせから彼女を守るためにとった苦肉の策。
少し前、結の周辺で広がった噂も、『高校の後輩』ということでようやく鎮静化したところだったのに、さすがに今回は言い逃れできないだろう。
「モデルのお仕事とか……大丈夫でしょうか?」と心配そうな結に向かって、黄瀬は不満気に口を尖らせた。
心配なのは仕事ではなく、少し鈍いところのある恋人のこと。
勿論、彼女のことは全力で守るつもりだが、黄瀬にとっての問題はそこではなかった。
「そうじゃなくて……なんかさ、結のこと可愛いって言ってた」
「は?そんなの社交辞令ですよ。彼はいい人ですからね」
「いいヒト、っスか」
布団からひょっこり顔を出す無防備な瞳に、黄瀬は眉を顰めた。
あまり自信過剰なのも困りものだが、無自覚というのは更にたちが悪い。
今日はいい牽制になったとは思うが、用心に越したことはないだろう。
「もっとマーキングが必要っスね」
「え?ナニ言って」
キシリという鈍い音とともに、黄瀬は体勢を変えると結の上にのしかかった。
「え……?も、もう無理……ん、ンっ」
言葉ごと飲みこむように唇を塞いで、深く潜り込む。
やわらかい唇と甘い舌を、黄瀬は時間をかけてたっぷりと味わった。
(ホント、オレ……どんだけ)
唇から顎、そして首筋へと舌を這わせながら、わざと見える場所を選んで次々と痕を残していく。
「や、そこ駄目……っ」
「なんかオレ、またスイッチ入ったみたいっス」
「そんな、のっ」
スイッチ、探す?と挑むように光る金の瞳に、結の口許がわずかに緩む。
それは負けず嫌いな彼女の降参の合図。
「馬鹿……」
「その声、色っぽくてスゲー好き。もっと聞かせて」
「絶対、っ……言いませ、んぁ」
「ハハ。結らし……い、ン」
降りそそぐキスの雨。
ふたりの息があがり、絡まる指と指がシーツに新たな波を描き出していく。
「ぁ、あ、りょ、涼太……っ」
「ちょっ、それ……反則っ!」
暴走した黄瀬が、この後好き放題ヤらかして結を啼かせたのはいつものことで。
ただ、この日を境にお預けという名のお仕置きはなくなった。
end