第57章 【番外編】フレグランス
それは、世界にひとつしかない香りよりも、キラキラと光を弾くアンティークの小瓶よりも、心を溶かす魔法のささやき。
欲しい
もっと奥まで
隙間なく埋めて
「りょ、太が……欲、し」
「聞こえない」
「ひゃ、っ」
放置されていた胸の飾りをいきなり甘噛みされて、大きく反らせた背中から吹き出す汗がシーツを濡らす。
「ホラ。ちゃんと言えって」と焦れた唇にキツく吸い上げられて、呼吸が止まる。
「っん」
「──結」
まさしくそれは飴とムチ。
そんなに優しく名前を呼ばれたら、もう観念するしかない。
「ちょーだ、い……涼太を早く感じさせ……ん、あぁっ!」
すべてを言うことは叶わなかった。
腰が浮き上がるほど一気に身体の中心を貫く楔が、まだ固い壁に締めつけられたせいで、逆に質量を増して暴れだす。
「き、つ……結、少し力抜いて……これじゃ動けない、って」
「う……ぁん、だって……カラダの奥、に……涼太が、いっぱい」
「ちょっ、んな可愛いこと言って……も、ホントどーなっても知らないっスよ」
いつ装着したのか、うすい膜越しでもハッキリと感じる脈動が、指で慣らされていない壁面を溶かし、容赦なく拓いていく。
「ナカ、いつもよりうねって……ハ、締まる」
「ひ、あぁっ……待って、そんな奥……んン、アっ」
「ナニ言ってんの、引き込んで離さないのは……く、結っしょ。スゲェ気持ち、いい……っ」
「駄目、っ……なんか、も来ちゃ、う、あぁ、んんっ!」
持ち上げられた片足を肩に担がれて、呆気なく達してしまったことが恥ずかしくて、そして少しだけ悔しい。
「何、も……イッたんスか?きゅうきゅう締めつけて、食いちぎられそ」
「や、待っ……て、いま動いちゃ、あ」
「そんなエロい声で言われても、説得力ないって……ハッ、いつになったら分かるんスか、結……は、ホントに」
「んあぁっ!」
「く……っ、だからその声は反則、だって」
呼吸も整わないうちに、円を描きながら奥への侵入を企てる腰が肌を打つ。
「あ、ひゃ、ぁっ」
振り落とされないようにしがみついた背中に、結は短い爪を立てた。