第57章 【番外編】フレグランス
「ひ、ゃっ」
「相変わらず敏感っスね」
無意識に擦り合わせた膝に気づいたのか、クスリと笑う声から逃げるように、結はとっさに顔を背けた。
もし今、視線を合わせたら支配されてしまうから
あの魅惑的な瞳に
妖しく弧を描く唇に
「香水ってさ、人肌でさらに香りが変化するって知ってた?」
「知らな……い、んっ」
肌をすべるガラスの欠片が、首筋を舐めるように這い、耳朶の裏に深く塗り込められて、全身の細胞が騒ぎだす。
「肌がピンクになって……この香り、気に入ってくれたみたいっスね。それとも早く触って欲しいって合図なんスか?」
「そんな……こと思ってない、もん」
「またそーやってオレを煽る」
キュッと蓋をしめた香水のビンを枕の下に滑らせると、シャツの裾から奥へと進路を変えた手が、ささやかな膨らみをつつみこむ。
「ん、ぅ」
「ココ、もうこんな硬くして……気持ちい?」
ゆっくりと揉みしだかれるうちに、存在を主張しはじめる尖りを指先で引っ掻かれ、結は下唇を噛みしめた。
「頑固っスね。ま、そんなとこもたまんないってゆーか、逆にそそるんスけど」
いつの間に外したのか、ボタンの役目を終えたシャツを下着とともにはぎ取られ。
ねっとりとした視線に晒されて硬さを増す先端に、熱い息を吹きかけられて腰が跳ねる。
──ちゃんと触って
だが、絶妙な力加減で胸をまさぐる大きな手に、口から出るのは短い嬌声ばかり。
「や、あ、ぁっ……」
「こっちはどーなってんのかな?」
音もなく肌の上をタッピングする指が楽しげに下半身を目指す。
「あ……やだっ」
「足、開いて」
誕生日なのに、短く下される命令の声を拒むことは出来なかった。
わずかな抵抗を訴えるように、震える爪先が替えたばかりのシーツを掻きむしる。
「ふ、ぅ……ん」
「その声、カワイ」
ジーンズのファスナーを下げ、下着の中に滑りこむ乾いた指先が、茂みの中のオアシスにたどり着く。
「もうトロットロじゃないスか」
「あ、アぁ……っ」
くちゅりと音を立てながら泉を掻き回す指に刺激され、湧きだす蜜が黄瀬の手首を濡らした。
「オレの指、もっと奥まで欲しい?それとも──」
「涼太の、意地悪……ぅ、あっ」
「聞きたいんスよ、結の言葉で。ね、言って」