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【黒バス】今夜もアイシテル

第57章 【番外編】フレグランス







ふわふわ卵のオムライスにかけるのは、洋食屋で人気のデミグラスソースではなく、酸味のきいたトマトケチャップ。

そんなタイプじゃないことを知りながら、ハートマークを描いて欲しいとせがむ声に、今日だけは勇気を出して応えてみよう。

朝から煮込んだオニオングラタンスープに乗せるバゲットは、彼の好みの厚さにスライス済み。

「よし」

自分の誕生日だというのに、テーブルの上に並ぶのは彼の好物ばかり。

申し訳なさそうな顔で出掛けた恋人を、笑顔で出迎える準備は万全だ。

ただひとつ、新調した下着をいつ着けるかというタイミングを除いては。

(やっぱりお風呂の後、かな。でも……)

年中発情期の大型犬と暮らすには、常日頃から最低限のケアは怠れない。

以前に比べるとバリエーションの増えた下着たちは、そんなささやかな乙女心の表れだ。

『撮影終わった!

今からソッコーで帰るっス!』

そんな連絡があってから一時間。

早く顔が見たくてたまらないのに、帰宅を待つ時間すら愛しくて、このまま時が止まってもいいとさえ思ってしまう。

矛盾する恋心に苦笑いすると、結は薬指のリングに視線を落とした。



I'm all yours.



肌に触れる文字と、太陽のようにふりそそぐ眼差しは、愛されているという何よりの証。

『もうすぐ駅!

ダッシュで帰るから待ってて!』

広めのキッチンが気に入って契約した築浅の1LDK。

だが、駅から徒歩五分という物件の情報が、実態にそぐわないものだと知ったのは引越しが終わってからだった。

実際に歩くと八分は超えてしまうその道のりを、彼は長い足を駆使してものの数分で帰ってくるに違いない。

『駅着いた

けど

ケーキ持ってるから走れないっス(・_・、)』

マメな連絡を受信するたびに、ポケットの中の携帯がせわしなく震える。

「あわてなくてもいいって、朝あれほど言ったのに……」

そんな心にもないことをつぶやきながら、結は誕生石が光る手をそっと胸に押し当てた。





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