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【黒バス】今夜もアイシテル

第57章 【番外編】フレグランス



香水のイメージモデルに起用されたことを聞いたのは、一ヶ月ほど前のこと。

バスケに重点を置くことを公言してはいても、モデル黄瀬涼太へのオファーは衰えるどころか、その需要は増すばかり。

大学に入ってからは特に、メディアへの過度な露出を控えていた彼が、はじめは渋っていたというこの仕事を受けた本当の理由は分からない。

だが、結にはそれを聞きだすつもりはなかった。

いくら恋人とはいえ、彼の仕事にまで口をはさむべきではないと思っていたからだ。

「何か問題でも……?」

「や、それは企画に関することだからオレには関係ないんスけど……」

躊躇いながら顔をあげた黄瀬の重い口が開くまで、息を止めて待つ。

彼の言葉をきちんと受けとめる準備をしながら。

「ようやく決まった撮影日が……その、結の誕生日と被っちゃって」

「……え」





一週間後に控えた誕生日を、楽しみにしていないと言ったら嘘になる。

だが、飼い主のご機嫌をうかがうように耳を垂らすゴールデンレトリバーが、頭の片隅にこびりつく不安を一瞬で吹き飛ばす。

「モチロン!その日は絶対にダメだって、事前にマネージャーには伝えてあったんスよ!それなのに、スタジオとカメラマンの事情で、どーしてもその日じゃないと予定が組めないからって、事務所の社長にまで頭下げられちゃって」

ぷぅと頬を膨らませる子供のような恋人に、結は少しだけ距離をつめると、ソファの上でうなだれる忠犬の頭に手を置いた。

「お仕事なんだから仕方ないですよ」

「む……仕方なくないっス」

膝を抱え、納得いかないと頭を横に振る黄瀬の金の髪が、サラサラと指の隙間からこぼれ落ちる。

彼が愛用しているのは、ラベンダーやオレンジのアロマ精油を配合したプロ仕様のオーガニックシャンプー。

勿論、日々のトリートメントも欠かさない。

「その日は外で待ち合わせしてさ、映画を観たり、ショッピングしたり。夜は夜景の見えるレストランで豪華ディナーとかオレ、色々考えてたのに……」

「豪華ディナー……」

「反応すんの、そこ!?」

情報通な黄瀬のことだから、すでにお洒落な店を予約してあるに違いない。

テーブルの向こうにあるまぶしい笑顔にくぎづけで、夜景を楽しむ余裕などないことは、火を見るより明らかなのに。




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