第5章 モデル
玄関の扉を開ける数秒が、こんなにも惜しいなんて。
ガチャガチャと荒い音を立てながら鍵を開けると、黄瀬は余裕のなさを隠そうともせず、玄関先で靴を揃えようとする結の手を強く引いた。
「結、早く」
「あっ」
ドタバタと階段をのぼり、たどり着いた部屋は日暮れ前。
縺れるように沈みこんだふたつの身体が、ベッドをギシリと鳴らした。
明確な意志をもって、結の上に覆いかぶさった黄瀬は、抵抗するどころか、熱を帯びて見上げてくる潤んだ瞳に、コクリと唾を飲みこんだ。
「何、そのエロい顔」
「……き、気のせいです」
「へぇ、そうは見えないけど」
火照った頬に指先を滑らせると、「ん、っ」と抑えきれずにこぼれる声に反応して、ズシリと重くなる下半身。
服の上からでも分かるであろう昂りを、黄瀬は腰を揺らしながら、やわらかな下肢に擦りつけた。
「もしかして……結も我慢してたとか?オレに早く抱かれたいって顔してるっスよ」
「っ……そんなこと、ありません」
ぷいと顔を背けて露になった首筋は、ほんのりとしたピンク色。
桜のように染まる肌に誘われるまま、黄瀬はそっと顔をうずめた。
「無理しちゃって」
「ぁ、ん……っ」
「でも、もうオレ以外にそんな顔見せちゃ駄目だからね」
唇で首筋をなぞると、その愛撫を容認するように髪に絡む指に、欲求は増すばかり。
「……ん、黄瀬さ、っん、以外になんて……無理」
「そ?ならいいけど」
ベッドに広がる春色のコートは、まるで開花を待ちわびる花のよう。
腰でゆるく結ばれたベルトに、黄瀬は躊躇なく指をかけた。
「あ……」
「分かってると思うけど、今日の結に拒否権ないから」