第55章 アイシテル
「手、貸して?」
おずおずと差し出される指先を恭しく手に取ると、黄瀬は震える指に華奢なリングをそっと通した。
いや、もしかしたら震えているのは自分かもしれない──そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えながら。
「これはオレのものだっていうシルシ、とかじゃなくて……意味、分かるよね?」
「…………はい」
左の薬指にピタリとおさまった指輪を見つめながら、小さく頷く恋人の顎を、黄瀬は指ですくいとった。
今は指輪よりもオレを見て
その瞳に映すのはオレだけでいい
「ど?気に入った?」
「ハイ……すごく、素敵です。もう私……なんて言ったらいい、のか……」
「何も言わなくていいんスよ」
だから、ずっとオレのそばにいて
オレもキミのそばにいるから
「涼、太……」
めずらしく下の名前を口にするその声が、鼓膜を溶かすように甘く揺らす。
あぁ、もうホントに好き。
後でどんなに怒られてもいいから、今すぐに誓いのキスを。
だが、唇に視線を落とした黄瀬は、そこからこぼれ落ちるキセキのような言葉に耳を疑った。
「愛してる」
「え……」
フリーズしたパソコンのように処理能力を失って固まる黄瀬に、今度はゆっくりと、もう一度繰り返される愛の告白。
「アナタだけをずっと……これからも変わらずに愛し続けることを誓い、ます」
ハッキリと形を成すその声に、呼吸が、鼓動が、一瞬停止する。
「……結」
「愛しています」
瞬間、まるでこれからの未来を祝福するように吹き抜ける風が、ふたりの髪をやわらかく揺らした。
彼女に出会えたことこそが、キセキという名の宝物。
澄んだ瞳に映る自分の顔がじわりと滲む。
「オレも……」
永遠に変わらない想いを
色褪せることのない愛を今キミに誓う
アイシテル
瞳からこぼれ落ちる涙は、ガラスケースで見たどの宝石よりもまぶしくて。
自分だけの輝きを指でそっと拭うと、黄瀬は最愛の人の唇に、とびきり優しいキスをひとつ落とした。
end