第55章 アイシテル
「卒業おめでとうございます!」
「また海常にも顔出してくださいね!絶対ですよ!」
涙目の後輩達に囲まれて、照れくさそうに笑う黄瀬のピアスが、早春の陽射しを弾いてキラキラと輝く。
プラチナにゴールドのラインが走るそれは、誕生日に恋人からもらった宝物。
大切な存在を確かめるように指でピアスに触れる仕草は、もう彼の癖になっていた。
「サンキュ。今日は女子だけじゃなく、男子にもモテモテっスね。最後までオレって罪なオトコ……うぎゃっ!」
突如として背中に走る強烈な衝撃に、「ちょっ、誰スか!?」と振り返った黄瀬は、まるで信じられないものでも見たように固まった。
「ったく。最後までお前はチャラチャラしやがって」
デニムのジャケットの下に合わせたパーカーは、お洒落には興味のない彼らしいシンプルなボーダー柄。
ダメージ加工のないストレートのパンツと足元のスニーカーのまぶしい白に、黄瀬は目を細めた。
「笠松……センパ、イ」
「こら、笠松。いくら黄瀬が可愛いからって、今日くらいは素直に見送ってやれよ」
「なっ、森山!お前バカなこと言ってんじゃねーよ!シバくぞっ!」
「ふたりとも、こんな日にやめろって」
いつも周囲にアンテナを張りめぐらせている森山も、今日はその電波を一時解除して、新しい旅立ちの日を迎える後輩たちを、小堀とともにあたたかい目で見つめている。
細い目をさらに細めながら。
「センパイ達の絶妙な関係は今も健在だな。早川」
「ゔ、ぞーだな……なかむ(ら)っ」
「だ か ら。お前が泣いてどーすんだよ」
太い眉の間にシワを刻み、懸命に涙をこらえる早川の隣で呆れたように笑う中村の他にも、海常を愛し、バスケ部の絆を紡いできた先輩達の姿が、次々と黄瀬の目に飛び込んでくる。
「なん、で……」
まるであの頃にタイムスリップしたような空気が優しく頬をなでる。
蹴られた背中の痛みも忘れ、黄瀬は三年という月日ですっかり大人びて、凛々しさを増した端整な顔を、少年のようにくしゃりと崩した。