第55章 アイシテル
当然のようにふたりが向かった先にはすでに、見慣れた顔が大集結。
「お、やっと来たみたいだな。遅いぞ、ふたりとも!」
「キャプテン!澤田センパイ!」
体育館の前に集まっているのは、同じように胸にピンクの花を咲かせる三年生と、在校生として式に出席していた二年生だけではなく、わざわざ制服に着替えて登校してきたらしい一年生達の姿もあった。
一年という月日を経て、海常バスケ部の一員としての自信とプライドを身につけた一年生達の中には、『本当に水原さんの事が好きなら、センパイが庇ってあげるべきじゃないんですか!』と黄瀬に詰めよったことのある一ノ瀬の姿もあった。
彼もこれからは青の精鋭の一員として、新しく入部してくる後輩たちを導いていくのだ。
彼がこの一年間そうしてもらったように。
黄瀬と目が合った一ノ瀬は、精悍な顔で小さく頭を下げた。
「これで最後か?」
学校主催で行われた優勝の祝賀会と、三年生の追い出しという名の送別会が、ただでさえメタボリックな体型をより豊かにした自覚があるのかは不明だが、今にもボタンが弾けてしまいそうなスーツ姿で、武内は辺りを見回した。
「卒業式の後ここに集まるのは、すっかりうちの恒例行事になったな」
黄瀬を中心にズラリと並ぶ部員達の前で、無精髭をキレイに剃った監督は、いつもと同じ気難しい顔で卒業生ひとりひとりの顔に視線を送りながら、感慨深げに頷いた。
「海常の伝統を守り、次の世代へと引き継いでくれたお前達を誇りに思う。ここで培った経験は、これからの長い人生の中で、何ものにもかえ難い財産となるだろう。今後の活躍を期待している」
今年もこうして無事に生徒達を送り出せることに安堵の笑みを浮かべながら、「卒業おめでとう。またいつでも顔を見せに来い」と声をやわらげる武内に向かって、精鋭達はいっせいに姿勢を正した。
「三年間、本当に有難うございました!」
「「「有難うございました!!」」」
主将の凛とした声に続き、同じ想いを共有する仲間達の力強い声が、別れと旅立ちにふさわしい澄んだ空に、晴れやかに響きわたった。