第55章 アイシテル
「ウォリアーズ、か」
目に鮮やかなロイヤルブルーは、新しい航海を夢見るにはふさわしい未知なる海の色。
黄瀬は、いつかそんな未来を彼女とともに過ごす日を思い描きながら、テーブルの上の小さな手を握りしめた。
「先のことは分かんないけど、もしまたそんなチャンスが訪れたら、オレと一緒に来てくれるんだよね?」
そう囁いた耳がほんのりとさくら色に染まる。
「……は、い」
「ヤダって言っても連れてくけど、ね」
ぴくりと弾ける細い指に自分の指を絡めると、口に運んだ華奢な手の甲に唇を押し当てる。
もう離すつもりはないのだと。
「私……でいいのなら、どこにでも連れてってください」
連続で投下される爆弾発言に、ガラスの理性が砕け散る。
自分以外の男にそんな無防備な顔を見せないように、自分のことしか考えられなくなるように、そろそろ上書きする時が来たようだ。
「ったく……もうオレには結だけだって、一体いつになったら分かるんスか。これはお仕置き決定、っスね?」
鼻先をうずめた髪の香りが、お揃いになるまであと一ヶ月。
「え……だって、今日は部屋を」
「問答無用っスよ!」
「ふ、ぎゃっ!」
毛を逆立てる猫を抱えあげて、なだれ込んだベッドで何度も交わすキス。
無駄な抵抗を試みる腕がおとなしくなるまで、黄瀬は辛抱強くやわらかな唇を啄んだ。
「ん、黄瀬さ……駄目、っ」
「ナ~ニ?もしかして今日はダメな日とか?」
「そっ、そんなんじゃない……です、けど」
ぷいと横を向いた結のあらわになった白い首筋が、男を誘うように朱に染まる。
乱れた黒髪を耳にかけ、指先で弄んだ耳朶のやわらかさに、細胞が自制心を放棄して暴れ出す。
「ずっと忙しくて、何日触れてないと思ってんの?お預けくった駄犬がどーなるか、忘れたとは言わせないよ」
「お預けなんて……そんなつもりじゃ」
「じゃ──抱かせて?」
とっておきの低音で首に吹きかけた吐息に、ピクリと反応する指が金の髪を音もなく掻きむしる。
「その声……ズル、い」
「でも嫌いじゃないっしょ?」
「ム」
反論のない唇をゆっくりと塞ぐと、深く絡めた舌の熱に自ら溺れていく。
交わったところから溶けてひとつになるような感覚に身をゆだねながら、年が明けて初めて触れる柔肌を、黄瀬は時間をかけて味わった。