第54章 エンドレス
さっきまでの喧騒が嘘のように、凛とした静寂が頬を刺す。
「……静かですね」
コートを感慨深げに見下ろす結の後ろに音もなく立つと、黄瀬はその身体を閉じ込めるように手すりに腕を伸ばした。
無言のまま背中を預けてくれる恋人のぬくもりと、鼻腔をくすぐる髪の香り。
まだどこかフワフワとした夢心地の中で、黄瀬は腕の中の存在を確かめるように抱きしめた。
(夢じゃない。優勝、したんだ……)
その抱擁を受け入れるように青のジャージに触れる優しい手に、じわりと熱くなる胸を愛しさが満たしていく。
「……結」
黄瀬は大きく息を吐くと、艶やかな黒髪に頬をすり寄せた。
ありがとう
オレと出会ってくれて
ずっと隣にいてくれて
そして、こんなオレを好きになってくれて
あふれる想いを一体どうやって伝えたらいいのだろう。
いや、今は言葉よりも肌で確かめたい。
自然に絡む指で、お互いの体温を分け合いながら、もっと触れたいと思ってしまうのは自分だけなのか。
「結……」
背後から耳に押し当てた唇で、後ろを向くように促せば、戸惑いながらも顔を傾けてくる恋人の細い顎に、黄瀬は手をかけた。
「みんな……待ってますよ」と口では言いながら、唇をなぞる親指を拒む気配はない。
「ちょっとだけ。ダメっスか?」
「ちょっと……ですよ?」
「ウン。ちょっと、ね」
そっと啄んだ唇のほどよい弾力に、ピリと全身を駆け抜ける電流が神経を甘く蝕んでいく。
優勝した高揚感が燻る身体の奥から、もっと深くと欲しがる心を止めることは出来なかった。
「……結」
「ん、黄瀬さ……も、う」
「名前で呼んで。さっきみたいに」
オレの勝利の女神
何があっても絶対に離さない