第53章 ファイナル
金と銀のテープを幾重にもかぶりながら、勝利を分かち合う海常のユニフォームが歓喜で揺れる。
黄瀬は澤田と肩を組みながら、満面の笑みでベンチに戻ってくると、顔を見合わせてニヤリと笑った。
「胴上げしようぜ!オイ、みんな集まれ!!」
「ゲンゲン監督、宙に舞う!次の月バスの表紙はこれで決まりっスね!」
ふたりの呼びかけに、ワラワラと集まってくる部員の姿に、武内は青い顔を横に振った。
たとえ十数人がかりとはいえ、この身体を持ち上げるのは至難の業。
仮に数ミリ上がったとしても、床に落ちるビジョンは見えている。
いや、もしかしてそれが狙いか?
「ま、待て!胴上げは……や、やめないか!それよりも今、どさくさに紛れてゲンゲンと言ったのは黄瀬か!」
「今はそんなコトいいじゃないスか!ホラ!みんな、いくっスよ!せーの!」
観客の悲鳴とキャプテンの声を合図に始まった監督の胴上げは、一回とはいえ無事に成功。
安堵の溜め息と大きな笑いが会場をつつみこむ。
「少しダイエットしてくださいよ、ゲンゲン監督」
「だからその名前で呼ぶんじゃない!」と武内は語気を荒らげながらも、いつもの気難しい顔をゆるめ、悲願の全国制覇を成し遂げた部員達を涙ながらに讃えた。
泣き笑いの顔のチームメイトと固く抱き合い、ハイタッチを交わし、観客席を見上げようとした黄瀬は、今になって身体を襲う体力の限界と、ビリビリと引き攣る足に顔を歪めた。
その時。
「アホか」というぶっきらぼうな声とともに背中を容赦なく叩かれて、黄瀬は大きく前につんのめった。
「う、わっ!ちょ、何するんスか!?」
よろめきながら後ろを振り返った黄瀬は、潤んだ目をうっすらと細めた。
「……青峰っち」
「無理すんじゃねーよ。早く引っ込んでアイツに手当てしてもらえ。勝利の立役者が表彰式に出られないんじゃ、カッコつかねぇだろーが」
魂の抜けた桜井の首根っこを掴みながら、負けても王者の貫禄を纏いながら、キセキのエースと呼ばれた男は、どこか満足気な笑みを浮かべた。
それ以上の言葉は必要なかった。
ふたりは高々と上げた腕で、お互いの健闘を讃え合うように、手のひらを高らかに打ち鳴らした。
割れんばかりの拍手と歓声に溺れそうなコートの上で、黄瀬は大きく息を吐くと、海常の横断幕が揺れる観客席へ、ゆっくりと顔を向けた。