第53章 ファイナル
「The end……だね」
パーフェクトな発音で、喜びに湧く者と、反対にコートに崩れ落ちる者それぞれに賞賛の溜め息を送ると、氷室辰也は胸に光るリングにそっと触れた。
その隣では、淡い紫の髪をかき上げながら、トサリと背中を席にもたれさせた男が、思い出したようにお菓子の袋に手を入れた。
「さすがにお菓子を食べる手が止まってたようだね。どう?最後にアツシのディフェンスで見事にボールを叩き落とした黄瀬君の感想は?」
「そーだね。今度、黄瀬ちんにアイスおごってもらおうかな。中学ん時も、よくおごってくれたんだよね。ゴリゴリ君アイス、箱ごと」
「は、箱ごと?」
指についた塩をぺろりと舐めると、紫原敦は空になったスナック菓子の袋をくしゃりと握りつぶした。
「あ~、なんかアイス食べたくなってきたかも。室ちん、コンビニ付き合ってよ」
「お祝いを言いにいかなくてもいいのかい?友達なんだろ?」
「面倒くさいから別にいいよ~。また会うこともあると思うし」
おもむろに席を立った紫原の、二メートルを越える身長に周囲がざわつくのも気に留めず、コートを見下ろしたその顔が一瞬喜びにつつまれたのを氷室は見逃さなかった。
練習はキライだよと文句を言いながら、ずっとバスケを続けている素直じゃない性格は、今はじめて知ったことではない。
「そう……だね。じゃ、今日は付き合ってくれたお礼に、俺がおごるよ」
「マジで?やったぁ~。今いろんな味が出てるんだよね。室ちんも一緒に食べよ」
真冬に、アイスの箱買いは勘弁してほしいなと頭の片隅で考えながら、氷室は死闘を演じた男達の姿をもう一度目に焼き付けるように、熱気で白くかすむコートに顔を向けた。