第53章 ファイナル
ピィーーーーッ!!
審判の笛の音と、ボールがコートにバウンドする音だけが空間を支配し、一瞬の静寂の後に訪れたのは「優勝!海常高校!!」という絶叫にも似たアナウンスだった。
「うわあぁぁぁーー!!」
「黄瀬が止めたぞ!」
「海常だ!勝ったのは海常だーーっ!」
観客の声をかき消すように、派手な音を立てて放たれた金と銀のテープがキラキラと天井から舞い散る中、コートにいる者だけでなく、ベンチから一斉に飛び出してきた海常の選手達が次々と黄瀬を取り囲む。
「キャプテン!やりましたねっ!」
「勝ったぞ!ついに全国制覇だ!黄瀬、お前のおかげだ!」
「黄瀬センパイっ!」
「最後のシュート、よく止めたな!黄瀬!」
クイックリリースされた桜井のシュートを、間一髪というところで叩き落とした黄瀬は、ほのかに紫に染まるオーラをその神々しい身体に纏いながら、駆け寄ってくる仲間達に向かって、まだ今の状況が掴めないという表情を浮かべた。
「……終わった、のか?」
流れる汗を拭うことも忘れ、黄瀬はキラキラと視界をよぎる勝利の輝きをぼんやりと追いかけながら、目の前で崩れ落ちる桜井の腕を咄嗟に掴んだ。
「ちょっ、桜井クン!大丈夫っスか?」
「ハ、ハイ!すいません!大丈夫……だい、じょうぶ……じゃ、あり……ません。スイマ、セ……」
次々とコートに崩れ落ちる桐皇のチームメイトの姿に、桜井はほろほろと涙を流しながらその場に座り込んだ。
ただひとり、まるで王者のように堂々とした態度を崩さない青峰が、肩で小さく息をした後、泣きじゃくるキャプテンに向かって歩いてくる表情は、いつもより少し弱々しく、だが清々しくさえあった。
黄瀬は、桜井の肩をぽんと叩き、ゆっくりとその場を離れると、まだ混乱する頭に酸素を送りこむように、大きく息を吸いこんだ。
「海常ぉ!!やったな!スゴかったぞ!」
「きゃあぁ!黄瀬くーーん!おめでとう!!」
「優勝おめでとう!!」
まだ痺れて感覚の戻らない手のひらを強く握りこむと、黄瀬涼太はその勝利を確かめるように、右腕を高々と天に突き上げた。