第53章 ファイナル
「ナメんなよ!黄瀬っ!」
青峰の筋肉がしなるより早く、褐色の身体の横を黄金の閃光が目にも止まらぬ速さで駆け抜け、誰もが海常のゴールを──勝利を確信したその時。
「させるかよっ!」
「ハッ、予想通りっスね!」
「何っ!?」
青峰の動きは、だが黄瀬の予想の範囲内。
シュートの体勢から一転、マークを外した仲間へのパスを図る腕に襲い掛かる青峰の鋭いバックチップを鮮やかに躱し、コートに降り立った黄瀬の顔が険しく歪んだ。
「く……っ!」
ぐらりと傾くその背中に、絹を裂くような悲鳴とどよめきが交差する。
(くそっ!なんでこんな時に……っ)
「黄瀬ーーっ!!」
「っ、頼む!!」
すかさずヘルプに入った澤田に、バランスを崩しながら放ったパスが数ミリ狂ったことで、桐皇に止めを刺すはずだった海常のシュートがリングに向かって危うい軌道を描く。
残り時間は数秒。
これが決まれば海常の勝利はほぼ間違いない。
「入れーーっ!!」
「落ちろーーっ!!」
だが、勝利の女神はいつも気まぐれだ。
リングに嫌われたボールが、宙を舞い、照明と重なってその輪郭を失う様子に、黄瀬は昔の古傷で疼く足に眉をしかめながら声を張り上げた。
「リバウンドーーっ!!」
落ちてくるボール目がけて、一斉に飛ぶ黒と白のユニフォームが、獲物を奪い合うように激しく衝突して火花を散らす。
その中で、今日一番の跳躍をみせてボールにいち早く到達したのは、やはり桐皇のエースの右腕だった。
「青峰!カウンターだ!!」
「大ちゃんっ!!」
逆転へのシナリオと舞台は整った。
滅多なことでは動じない原澤も思わずベンチから腰を浮かせ、マネージャーの桃井さつきは、長い髪を揺らしながら胸のバインダーを強く抱きしめた。
青峰は、まるでリバウンド勝負を制するのは当然であるかのように顔色ひとつ変えることなく、残り時間に一瞬視線を送ると、渾身の力を込めてボールを放り投げた。
「良ーーーーっ!!」
自ら逆転のゴールを決めにいくであろうと、会場にいるほとんどの者が確信する中で彼が選択したのは、最後のチャンスをチームメイトに託すことだった。