第53章 ファイナル
だが、海常の猛攻を黙ってみているような桐皇ではない。
洛山をも翻弄したパスで海常の動きを封じながら、黄瀬のディフェンスの一瞬のスキをかいくぐった青峰の身体が真横に飛んだかと思うと、その腕から放たれたボールが針の穴を通すような正確さでネットを揺らす。
「決まったーーっ!青峰のフォームレスシュート!これで海常との差は二点だ!」
「一本。ここ、決めるっスよ」
左手でドリブルをしながら右手の指を一本立て、チームを冷静に鼓舞する声を合図に、オフェンス体勢に入る海常につけいる隙はまったく見当たらない。
桜井が絶望的な声を上げる。
「青峰さんっ!もう時間が……っ!」
「弱気になんじゃねーよ!キャプテンだろーが!必ずチャンスは来る!お前はその時が来たら、お前の仕事をしろ!いいな!」
「ハ、ハイっ!スイマセン!」
謝ってばかりのシューターが、実は桐皇一の負けず嫌いであることも、その実力が本物であることも、一年の時から付き合っていれば嫌でも分かる。
弱気な主将を叱咤すると、青峰はチャンスをうかがう獣のように、黄瀬の前に立ちはだかった。
「やるじゃねーか。黄瀬」
「青峰っちこそ。この時間帯に、なんつーシュート打つんスか。ハッ、おそろしいっスね。やっぱ」
「つまんねぇこと言ってんじゃねーよ、今サイコーの気分なんだ。こっからだろ、面白くなんのは。最後の決着をつけよーぜ!黄瀬っ!」
「望むところっスよ!」
コートの上で対峙するふたりは、雲を起こす青い龍と、風を生む黄金の虎の戦いを彷彿とさせて、会場にいるすべての者を魅了。
果たしてどんな結末が待っているのか
そもそも決着がつくのか
均衡が一向に崩れないまま、今は辛うじて海常がボールをキープしているものの、どちらも決定的なチャンスが見いだせず、刻々と数字だけが時を刻んでいく。
「ずっと観ていたい、な……」
そんな言葉がポツリとこぼれる観客の思惑とは裏腹に、最終決戦は確実に終焉を迎えようとしていた。
(うちがまだ二点リードしてる……けど守りに入ったんじゃダメだ。欲しい、どうしても後一本が!)
「ヘイっ!!」
「黄瀬っ!」
「チッ!」
味方のスクリーンに助けられ、青峰のマークから外れた黄瀬にボールが渡った瞬間、会場は今日一番の歓声に包まれた。