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【黒バス】今夜もアイシテル

第53章 ファイナル



「ハッ、そーこなくちゃな」

青峰は、目の前でゆっくりと、だが今まさに進化を遂げようとする美しい獣に、薄笑いを浮かべた唇をすぐに引き攣らせた。

背筋をゾクリと走る戦慄と、全身の汗が一瞬で凍りつく悪寒は、野生の本能が告げるSOS。

「悪いけど、負けるわけにはいかないんスよ」と微笑みすらたたえた金の瞳が、リードされているとは思えない色を浮かべながら、青峰を射抜く。

(なんだ。このすべてを凍りつかせるような黄瀬の……いや、海常の静かな炎は)

赤司の天帝の目と対峙した時とも、ゾーンに入った火神と火花を散らせた時とも異なるオーラに、ジリと後退する青峰の顎から滴る汗がまるで合図でもあるかのように、一筋の光となってコートを駆ける黄瀬を中心とした、海常の反撃がはじまった。





桐皇リードから一転、ジリジリと点差を詰める海常の快進撃に、会場は騒然とした空気につつまれた。

「木吉……黄瀬のあのポジションって」

眼鏡がズレていることにも気づかずに、日向順平は、静かに戦況を見守る大男に顔を向けた。

「ああ、ポイントガードだな。黄瀬は今、海常の司令塔としてこのゲームを完全に掌握しつつある。だが、重要なのはそこじゃない。おそらく黄瀬はゾーンに入っている……それも第3クォーターの途中から」

「え、マジか」と目を見開く日向の隣で、相田リコはコートから目を離さずに、深く頷いた。

「そうね。あの赤司君が、味方をゾーンに近い状態まで引き上げた時とほぼ同じ状況を作っているのは、それが原因だと私も思うわ」

「黄瀬がゾーンに……でも、最後まで体力もつわけねーだろ」

木吉鉄平は太い眉を顰めながら、今目の前であの時と同じ……いや、それ以上の奇跡を起こそうとしている黄瀬涼太という男に感嘆の息をもらした。

「いや。体力だけじゃない、ゾーンには精神力も必要だ。これは推測でしかないが、黄瀬自身にその自覚がないことが幸いしているのかもしれんな。そうじゃなきゃ、とっくに時間切れだ」

「うわあぁーーっ!また決まったぞ!海常、スゲェ!」

これ以上の会話が成り立たないほどの地響きは、ついに海常が逆転を果たしたことを意味していた。

「今、コートの上で最強なのは、間違いなく黄瀬だ」

木吉は、気高くも雄々しく戦うひとりの選手に心からの敬意をはらいながら、膝の上で組んだ手に力を込めた。





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