第53章 ファイナル

怒号のような歓声が場内に響き渡る中、いよいよ頂点を決める最終決戦が幕を開けようとしていた。

「来たぞ！今も進化し続ける天才、黄瀬涼太率いる海常と、至上最強のスコアラー、青峰大輝を擁する桐皇だ！」

「スゲェ迫力だな……てか、どっちが勝つと思う？」

「桐皇のオフェンスを、海常がどこまで抑えられるかが鍵になるんじゃねーのか」

「お、主将が握手するぜ！いよいよだな！」

試合は、主将同士の握手からすでに始まっていると言っても過言ではない。





二年前、黒縁メガネの奥の目を細め、『よろしゅう頼むわ』としたたかな笑みを浮かべる男に、『よろしく』と精悍な顔で正々堂々と握手を交わす男も。

代替わりした後すぐに実現した練習試合で、こめかみに青筋を立てながら『ヨロシクっす！』と分かりやすく威嚇してくる熱血漢に対して、『よ（ろ）しく！』といつもの微妙な滑舌で挨拶を返し、チームメイトをハラハラさせていることに気づかない男も。

そして。

「よろしくっス」

本当にモデルなのかと思わせるほどの闘志を漲らせながら、切れ長の目に挑戦的な色を浮かべる男に圧倒され、「こここここちらこそ……よ、宜しくお願いします！って、生意気なこと言ってすいませんっ！」と何年経っても謝りグセの直らないサラサラヘアの男も。

「オイ、良。お前、いい加減慣れろって」

「あああ青峰さん！すいません！こんな僕が青峰さんを差し置いてキャプテンだなんて、ホントにすいませんっ！」

「それ、いま蒸し返す話じゃねーだろ」

桐皇の現キャプテン桜井良の後ろから、青い陽炎のように現れたのは、すでにNBAとの契約が決まっている高校最高峰のプレイヤーのひとり、青峰大輝。

一見、傍若無人な雰囲気の中に、仲間への気遣いが見え隠れするのは、気のせいではないはずだ。

「相変わらずっスね、桜井クンは。てか青峰っち、久しぶりっスね。公式戦は」

「わりーけど、今度も勝つのは俺達だ」

「『オレたち』とからしくないこと言って、青峰っちもオトナになったんスね」

「ぬかせ」

コートの上で再び相まみえた好敵手は、いよいよ始まろうとする最終決戦に向けて滾る気迫を隠そうともせず、だがお互いを認めたものだけに通じる瞳で、再戦の喜びを分かち合うように視線を交わした。