第5章 モデル
──頭から血の気がひく音がする。
そんな文字で語られる表現は、小説の中だけのことだと思っていたのに、まさか体感する日が来るなんて。
ふたりは固まったまま、救いを求めるように目だけでお互いの顔をのぞき見た。
(イヤな予感しかしねぇ)
(ウソ、だろ?)
背中を流れ落ちる一筋の汗が、これが現実だと思い知らせるようにヒヤリと肌を刺す。
季節は今、春だというのに。
恐る恐る顔を上げたふたりは、高い位置から見下ろしてくる男の顔を一瞬で認識すると、同時に声を上げた。
「「き、黄瀬涼太っ!?」」
学校の制服らしいその立ち姿は、男でも一瞬息を飲むほどの存在感を漂わせ、ふたりを圧倒。
モデルならではの長身に加え、きらめく金髪をなびかせる目の前の男は、同性でも知らない者はない人気モデル黄瀬涼太の特徴と見事に一致していた。
ゆるく開かれた襟から漂う不思議な色香と、服の上からでもそうと分かる立派な体躯。
だが、人気の証でもある整った顔は、凄まじい怒りをたたえて不機嫌に歪んでいた。
黄瀬は、全身で威圧するように睨みを利かせると、動揺している男の胸ぐらを乱暴に掴んだ。
「オマエ、もう一度言ってみろ」
「うっ、俺……」
不穏な空気を察知して、一体何事かと少しずつ集まりはじめた野次馬が、幾重もの人垣となって三人をぐるりと取り囲んだ。