第53章 ファイナル
「明日の相手がたとえ誰であろうとも、お前達なら必ずやってくれる……そう俺は信じている」
はち切れそうな腕を組んだまま、武内はミーティングルームに集まった部員達にいつもと同じ顔を向けると、隣に座るキャプテンに視線を送った。
「黄瀬。お前から何か言うことはあるか?」
「はい」
ピンと張りつめた空気の中、ゆっくりと立ち上がった黄瀬の椅子が、カタリと音を立てる。
「あ~でも、オレ堅苦しい話は苦手なんスよ。もう知ってると思うけど」
小さな笑いがさざ波となって、いい意味で全員の肩の力を抜く。
意図したものではないにしろ、緊張と緩和は、人の心を引きつける重要な要素のひとつ。
これも、彼の天性の才能といえるのかもしれない。
「でも、ひとつだけいいかな」
黄瀬は、自分の隣で、毅然と前を向くマネージャーにチラリと視線を落とした後、自分をまっすぐに見つめる大勢の顔を見渡した。
「オレ達は……海常は、強い」
部屋に響くのは、耳に心地いい凛とした声と、その主将の言葉に固唾を飲む音。
「でも、この強さは決してオレ達だけのものじゃないことを、最後にもう一度思い出して欲しい。
体育館に染みこんだ汗を。
手垢にまみれたボールを。
そして、偉大な先輩達の無念の涙を」
テーブルについた指先が、かすかに、だが揺るぎない決意を漲らせるように震える。
「今こそ勝利を掴みとろう。ここにいるみんなで。オレ達の絆と信頼を──信じてる」
空間の隅々までしみ渡る涼やかなテノールが、ひとりひとりの心に勝利への誓いと闘志を、あらためて灯した瞬間だった。
この場所、この時。
共にいられることをキセキと呼ばずにはいられない。
青の精鋭たちを導く姿は、まさに海常の守護神。
結は、誇らしい気持ちであふれそうになる胸に、手のひらをそっと押し当てた。