第53章 ファイナル
「あらためて言うまでもないとは思うが、明日の相手は桐皇だ」
海常に戻り、ミーティングルームに集まった部員達は、監督の第一声に、勝利に酔いしれていた顔を引き締めた。
「あの赤司を欠いていたとはいえ、洛山は間違いなく優勝候補の一角だった。その洛山を最終的にねじ伏せたのは……」
セミファイナル第二試合
洛山高校 VS 桐皇学園
秋からイギリスに留学した赤司を欠いた洛山だったが、彼らは最古にして最強の王者たる名に相応しく、前半は桐皇をおさえ常にリードを守っていた。
若かりし頃、全日本代表の四番を背負っていた白金という指揮官のもと、赤司が三年という月日を以って導いてきた『開闢の帝王』は、最多の優勝回数という誇りを胸に、青峰を完全に支配下に置きゲームを有利に進めた。
だが、その流れは後半戦に入り、ガラリと様相を変えた。
「後半の青峰さん、すごかったですね……」
「そーだね。あんな青峰っち見るのはオレもはじめてかも」
監督の隣に、今や座るのが当たり前となった黄瀬と結は──彼女には不本意なことだったにしろ──観客席からの景色を思い出して、ひっそりと言葉を交わした。
ハーフタイムという短い時間にもかかわらず、桐皇の劣勢を立て直したのは、参謀役である桃井さつきのデータだけではなく、ベンチで前髪を弄りながら静かに戦局を見守っていた監督の策略が功を奏したものと推測された。
桐皇の監督原澤は、一見紳士風でクールな風貌を崩すことなく、予想通りの化学反応を見せはじめる青峰大輝という才能に、口の端でうすく笑った。
ゾーンを解放し、鬼神のごとくコートを駆け抜ける青峰は、一見ワンマンに見える強引なプレイで洛山の選手を翻弄しながらも、味方にパスを回し、時に味方からのパスを受け、次々とスコアを積み重ねていった。
それは、まだ自己中心的なものではあったが、己の力だけでは勝利を掴むことはできないのだと悟った二年前の冬のキセキがもたらした、青峰の新しい一歩だった。
バスケが好きで
ただ純粋にボールを追いかけて
相手が強ければ強いほど目を輝かせていた頃の面影を完全に取り戻した最強のスコアラーは、勝利を決定づけるラストボールを、自身の手でリングに叩きこんだ。