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【黒バス】今夜もアイシテル

第53章 ファイナル





『試合全体を通して言えることですが、大事な終盤、火神さんと一対一になる場面が必ず出てくるはずです。その時、勝敗を分けるのは……』

まだ桃井には到底及ばないとは言いながら、兄の恋人にも助言を貰いつつ、監督をも唸らせたという戦術を次々と提案する結の姿に、黄瀬をはじめとするメンバー達は一様に目を丸くした。

『これ、全部水原さんが考えたのか……てか、黄瀬。お前こんなに覚えられんのか?それが心配だよ』

『確かに』

『ちょ、澤田っち!皆もヒドいっスよ!』

『でもこれって、かなり難易度高くないすか?』

今度は一様に眉を顰める面々に向けて、『大丈夫ですよ。この作戦をこなすだけのフィジカルもメンタルも、ちゃんと作ってますから』と言い切るマネージャーの微笑みに、身震いする精鋭達に目を細めた武内の、丸々とした頬がふいに引き締まる。

『最終的な判断はすべて黄瀬、お前に任せる。お前の選択を、俺は信じる』

それは、かつてキセキの世代というだけで彼を特別視していた頃とは違い、黄瀬涼太というひとりの選手に全幅の信頼を置いている、優秀な指導者の声だった。





戦術を実行に移すために必要な身体は、一朝一夕に作れるものではない。

インターハイでベスト4に終わった後、全員が希望したとはいえ、その中でも黄瀬に組まれた練習メニューは特に厳しいものだった。

(あれは確かにキツかったっスね……)

呼吸すらままならないほどのトレーニングは、強靭な肉体とそれに負けない精神力を手に入れるために不可欠だったとはいえ、最後までやり遂げることが出来たのは、彼女がいてくれたからに他ならない。

オーバーワークにならないよう、厳しく、時には優しく見守りながら、恋人の顔を一切見せることなく、黙々と己の仕事に打ち込んでいた姿に今更ながら頭が下がる。

(おかげで、今まで練習してきた中で一番感覚が良かった気がする)

黄瀬は自分の右手を見た後、観客席へと顔を上げた。

ベンチに入れなかった部員達が歓喜の声を上げながら身体を揺らす中、顔の前で祈るように手を合わせる恋人の視線を受け止めると、黄瀬は瞳の奥で語りかけた。

──これはひとつの通過点に過ぎない

同じ思いを抱く彼女が、コクリと頷くのを確認すると、黄瀬は明日への最終決戦に思いを馳せながら、その拳を強く握りしめた。




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