第53章 ファイナル
「く……っ!その体勢から打つのかよ!?」
すぐに追いついてブロックに跳ぶ火神の腕を躱すように、身体を後方に倒しながら、黄瀬の右腕から放たれたボールは、天井に届かんばかりの高さまで舞い上がり。
そして、ネットを揺らす直前に審判の笛の音が高らかに響き渡った。
試合後半の体力的にも厳しい時間帯に、緑間の高弾道スリーを、しかも体勢を傾けながら打つことは、決して簡単なことではなかった。
それ以外にも、選択肢はもちろん無数に用意されていたが、黄瀬は一番リスクの高い選択肢を選び、そして勝利をその手に──チームに引き寄せた。
それは、海常が誠凛にウィンターカップでのリベンジを果たした瞬間でもあった。
「81対80で海常高校の勝ち!礼!」
「「「有難うございました!!」」」
整列後の挨拶を終え、まだ肩で息をする黄瀬の前に差し出されたのは、火神と黒子の手だった。
「フェードアウェイからの緑間のスリーとはな。恐れ入ったぜ」
白い歯を見せて勝者を讃える、その顔に悔いは見られない。
全てを出し切ったからこその、それは心からの笑顔だった。
「最後は絶対に火神っちが来ることは分かってたからね。とっておきの切り札ってヤツっスよ」
「黄瀬君。明日の決勝戦、ボク達の分まで頑張ってください」
「もちろんっスよ!黒子っち」
ふたりと握手を交わしながら、黄瀬は、誠凛戦に向けて熱を帯びる作戦会議で、監督の隣に座り、いつのまにか会議の中心役を担っている結の言葉を思い出していた。