第53章 ファイナル
全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会
1971年から始まったこの大会は、第19回大会より冬に開催期間が変更されたことにより、ウィンターカップと呼ばれるようになった、インターハイとならぶ国内二冠大会であり──そして、高校三年生が出場できる最後の舞台でもあった。
「海常のカウンターだ!決めろっ!!」
「止めろーーっ!誠凛!」
セミファイナル第一試合は、奇しくも二年前と同じ対戦。
観客の唸るような歓声をも上回るバッシュのスキール音が、第四クォーターの終盤に入り、熱気渦巻くコートの上を疾風のごとく走り抜ける。
「火神君!」
「任せろ、黒子!いかせねぇ、黄瀬っ!」
誠凛のエース、火神の瞳から放たれる一筋の光。
海常のエースの前に立ちはだかるその男は、キセキの世代と対等に渡り合ってきた奇跡の男。
黄瀬涼太は、目の前の男を待ちわびたかのようにキュッと足を止めると、ゆっくりと、だが力強くボールをコートに叩きつけた。
「いいっスね。この瞬間を待ってたんスよ」
口角を上げ、不敵に笑う黄瀬のユニフォームが、青の炎と化して全身を包みこみ、赤い稲妻と火花を散らす。
1点ビハインドで残りはわずか十数秒。
体力も精神力も限界はとうに超えているはずなのに、黄瀬は自分でも驚くほど冷静な頭で、コートを俯瞰するように考えを巡らせた。
(どーする?火神っちをここで足留めして、パスを出すか)
だが、パスコースは誠凛の隙のないディフェンスで塞がれており、幻のシックスマンとまで言われた男の動きは予測不可能。
(そろそろタイムリミット、っスね)
吐き出された息で、汗ばむ前髪がかすかに靡く。
右、左、右と身体を揺らす黄瀬のドリブルに死角は見当たらず、手のひらに吸いつくようにボールを操りながら、右に流す視線はフェイクなのか、そのまま動くのか。
「クソッ、読めねぇ!」
火神の集中力が切れたのは一秒にも満たなかった。
だが、その一瞬の隙をとらえた金の瞳が輝きを放つと同時に、しなやかな足がコートを力強く蹴りあげる。
「いけ!黄瀬ーーっ!」
「黄瀬センパーーーーイっ!!」
ベンチとチームメイトの絶叫にも等しい声を一身に浴びる背中が、息が詰まるような勝負に決着をつけるように、鮮やかに空気を切り裂いた。