第52章 ビトウィーン・ザ・シーツ
床に脱ぎ捨てられているのは、この時期に街でよく見かける赤い衣装。
自治会主催のクリスマス会で、子供達にプレゼントを配るためにわざわざ用意したらしいそれは、今思い出しても噴き出してしまいそうなくらいに不恰好だった。
「あんな窮屈そうなサンタさん、はじめて見ました」
「仕方ないだろ。俺に合うサイズが見つからなかったんだから」
そう言いながら、背後から抱きしめてくる腕が、まだ物足りなさそうに素肌を這う。
油断するとすぐこれだ。
「でも子供たち、喜んでくれてよかったですね」
「いてっ」
布団の中でぺしりと叩いた大きな手は、だが懲りることなく胸に触れ、この後の展開を予感させるように下腹部を目指す。
「木吉さ……も、駄目です……って」
だが、髪を掻き分け、うなじに触れる唇は熱く、スルスルと背中をすべる舌先が、まだ火照る身体に容赦なく新しい火を灯す。
「頑張ったサンタにご褒美、くれないか?」
穏やかな、でもその奥に秘めた劣情を目一杯受け入れた身体はもう限界。
なのに。
いつの間にか体勢を変え、上から見下ろしてくる瞳が、「いいだろ?」とでもいうように妖しい弧を描く。
人のよさそうな顔した、でも強かな恋人に、最終的に負けてしまうのは悔しいけれどいつも私。
「もう十分だと思うんですけど……ん、ン」
これ以上の反論を封じる唇が、口内を犯し、わずかに残った理性のカケラを食い尽くす。
「……結」
熱を帯びるキスから逃げるように顔を逸らせれば、追いかけてくるくちづけが責めるように下唇を噛む。
与えられる痛みも、貪欲な舌も、私だけのサンタクロースからの贈り物。
「なぁ、そろそろ一緒に暮らさないか」
「え」
不意打ちの言葉は、持ち前の天然発動か、策略家の罠か。
驚く暇もなく身体を貫く熱に、揺さぶられ、ナカから溶かされて、何も考えられなくなるほどに深く溺れていく。
「あ、や……ぁっ、ん」
「可愛いな。その声」
聖なる夜はまだ終わらない。
さらなる攻勢をかけてくる背中に、私は爪を立てて、ささやかな赤い反撃の痕を残した。
木吉鉄平 with サンタクロース
Whose turn is it?