第52章 ビトウィーン・ザ・シーツ
「う、ん……」
目が覚めたのは、むきだしの肩に触れる冷気と、肌をくすぐる寝息のせい。
胸に顔をうずめ、無防備に眠る恋人の頭を抱き寄せて、短い髪を指で梳く。
(ふふ。子供みたい……)
かつて、新鋭の暴君として畏れられていた彼のこんな姿を、誰が想像出来るだろう。
いや……今でも十分に暴君だけど。
でも、『いいから黙って俺に抱かれてろ』と有無を言わせない褐色の腕が、どんなに優しく抱きしめてくれるのか。
それを知っているのも、きっと私だけ。
自分の薬指をクルクルと回る、真新しい指輪に唇を押し当てると、わずかな動きに目覚めた蒼の瞳が、気だるげに宙をさ迷う。
「起こしちゃいました?」
「……んだよ、その物欲しそうな顔は」
胸の真ん中に鼻先をこすりつけながら、彼の理想には程遠い胸をつつむ手が、やわやわと動き出す。
「ちょっ、青峰さ……っ」
「うっせーな。寝起きに耳元で騒ぐなって」とだるそうなふりをしながら、パクリと咥えてくるうすい唇に、不覚にも胸の飾りが硬度を増す。
「……っ」
「ハ。身体の方が素直だよな、お前は」
布団の中でゆっくりと体勢を変える身体に、ベッドがギシリと不穏な音を立てる。
目の前の視界を覆い尽くす、野生動物のようなカラダに見惚れていると、シーツの上で絡む指がぴくりと弾けた。
「……サイズ、直しに行くか?」とバツが悪そうな低い声と眉間のシワ。
ほんと、分かってない。
サイズの合わないリング以上に大切なのは──
「ううん……このままでいい」
「落としても知らねーぞ」
ぶっきらぼうな、でも誰よりも真っ直ぐで純粋な心をこれからもずっと隣で感じさせて。
「……大好き」
今から狩りを始めようとする獣の、一瞬の隙をついて気持ちを伝えられるのは、クリスマスの夜の奇跡。
驚きの色をたたえた瞳が、うっすらと細められる。
「雪でも降んじゃねーの」と不敵な笑みを浮かべる唇が、乱暴に重なったのは最初だけ。
「……結」
甘く名前を呼ぶのは、もっと深いキスをねだる時の彼のクセ。
多分、自分では気づいてないだろうけど。
とろけるようなキスに翻弄される幸せを胸に抱きしめながら、私はそっと目を閉じた。
青峰大輝 with Ring
Whose turn is it?